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2025年07月18日

高校中退から起業家へ-タレント起用を『誰でもできる』に変えたWunderbar

株式会社Wunderbar
長尾 慶人
代表取締役CEO

2025年7月2日(水)~7月4日(金)の3日間に渡り、京都市勧業館「みやこめっせ」およびロームシアター京都をメイン会場として「IVS2025」が開催されました。この記事では、本イベントのメインコンテンツの1つであるピッチイベント「IVS2025 LAUNCHPAD」の参加企業レポートをお届けします!


今回ご紹介するスタートアップは株式会社Wunderbarです。高校中退、芸能界での挫折を経てIT業界で活躍してきた長尾氏。コロナ禍でエンターテインメント業界の困窮を目の当たりにし、「表に出られなくても裏側で支えになりたい」という思いからWunderbarを創業しました。

タレントの広告素材をテンプレート化し、大企業のみならず地方企業やスタートアップにIPマーケティングプラットフォーム「Skettt(スケット)」を提供しています。150社以上の芸能事務所と提携している同プラットフォームは、AI×広告データを駆使した次世代IPエコシステムの構築を目指しています。

シリーズAで5億円を調達し累計調達額7億円を突破、IVS2025決勝進出も果たした同社が描く、IPマーケティングの民主化とは。


コロナ禍が生んだ使命感-芸能界挫折体験から「裏側で支える」決意へ

「IVS2025 LAUNCHPAD」での登壇の様子

IVS2025で決勝の舞台に立った長尾氏。

家庭の事情により高校を中退し働かざるを得なくなった長尾氏の人生は、まさに波瀾万丈でした。光通信系企業での営業を皮切りに、GMOインターネット、DeNAといったIT企業でキャリアを積み重ねながら、やがて起業家としての道を歩むことになります。
しかし、その原点には芸能界への憧れがありました。高校中退直前まで俳優を目指し、俳優コンテストでは上位入賞を果たすほどの実力を持っていた長尾氏。一時は事務所に所属し、舞台にも出演していました。

10代の頃にもともと芸能を目指していて、誰かを笑顔にするのが学生時代から好きだったんです。テレビが一番早いかなと思って、俳優コンテストを受け上位に入ることができたのをきっかけに、一時事務所に入ったりしていました。

長尾氏

しかし、舞台経験を重ねる中で直面した現実は厳しく芸能界への道を断念することになりました。それから約10年間、長尾氏はIT業界に身を置き、最終的には共同創業で会社を立ち上げるまでに至りました。芸能界とはもう関わることはないと思っていたと長尾氏は語ります。

転機は2020年、新型コロナウイルスの感染拡大でした。テレビ番組では出演者同士の距離が取られ、出演者数も制限されます。コンサートは開催できず、エンターテインメント業界全体が大きな打撃を受けました。長尾氏の周囲にいた芸能関係者からは「仕事がない」という声が相次ぎました。

コロナをきっかけに困っている芸能関係者を沢山見ました。IT業界にいた頃、事業を作って世の中をよくする領域にずっといたのでその経験を活かし、表舞台ではなく裏側で支えになりたいという思いが生まれました。

長尾氏

かつて挫折した芸能界への想いが、今度は「支える側」として蘇りました。長尾氏は共同創業していた会社を手放し、エンターテインメント業界を支援する新たな事業に専念することを決断。Wunderbarとして、「Skettt」をリリースしました。
社名には特別な意味が込められています。「Wunderbar」はドイツ語で「素晴らしい」を意味し、英語の「Amazing」に相当します。
「事業を通して、人にこの事業に触れてもらったときに、まるで Amazing みたいな言葉が出てしまうような体験を届けたい。」そんな長尾氏の強い想いが込められています。

挫折から生まれた使命感。表舞台への憧れから裏方への転身。長尾氏の人生経験すべてが、エンターテインメント業界を革新する新たな事業の礎となりました。

タレント起用の民主化

IPマーケティングプラットフォーム「Skettt(スケット)」

従来のIPマーケティング、特にタレント起用は一部の大企業だけの特権でした。数千万円規模の契約金、複雑な制約、長期間の交渉プロセス。これらすべてが中小企業や地方企業、スタートアップにとって高いハードルとなっていました。

Wunderbarが提供するIPマーケティングプラットフォーム「Skettt(スケット)」は、この常識を根底から覆しました。タレントの広告素材を事前に撮影してテンプレート化することで、タレント側の稼働を削減し、大幅なコストダウンを実現したのです。従来のIP活用は高額で制約が厳しく、大手企業のみが利用できる状況でしたが、長尾氏はこの課題を解決するため独自のアプローチを開発しました。

有名タレントの「指差し」や「OKサイン」といった、チラシでよく見かける広告用ポーズを事前に撮影・テンプレート化し、タレント本人の稼働をなくすことで、より手軽かつ低価格で企業に提供できる仕組みを構築しています。

長尾氏

この仕組みにより、月10万円台からタレント起用が可能になりました。様々な大手企業でもプロジェクト単位でのIP活用が実現しており、スタートアップや地方企業にとっても手の届く価格帯になりました。
そして、同社の強みは圧倒的なタレント数です。現在、「Skettt」では150社以上の芸能事務所と提携しており、交渉可能なタレントは5000人以上にのぼります。この規模により、ほぼすべての企業ニーズに対応できる体制を構築しています。

また、地方創生を目的とした取り組みとしてJAPAN SKETTT. PROJECT(ジャパン・スケット・プロジェクト)を発足。地方企業向けに、より安価でタレント起用を提供しています。
地方に人を戻すための起爆剤は、企業が元気になることであり、タレント起用は地方企業にとって高嶺の花というイメージがあるので、長尾氏の手がけるビジネスと相性がいいと長尾氏は語ります。

地方に人を戻すための起爆剤は、企業が元気になることであると考えています。
タレント起用は地方企業にとって高嶺の花というイメージがあるので、我々の手がけるビジネスと相性が良いんです。

長尾氏

地方展開で見えてきた意外なニーズもあります。当初想定していた広告効果やブランディングとは異なり、地方企業では採用課題の解決手段としてタレントが起用されています。北海道出身の菊地亜美さんを起用した中古車買取業者では女性認知度が年代別で3.5〜5.8%向上し、採用面でも効果を発揮しています。
現在、全国すべてのエリアで契約を獲得し、地方創生ネットワークは着実に拡大しています。

AI×データで描く次世代 IP マーケティング

「Skettt(スケット)」が目指すのは、単なるタレント素材の安価提供にとどまりません。長尾氏が「プラットフォーム」という言葉に込めた意味は、AIと広告データを駆使した次世代IPマーケティングの実現にあります。
同じ素材を複数の企業が使えば、どうしても似通った印象になってしまいます。この課題を解決するため、Wunderbarは生成AIによる素材カスタマイズ機能を開発中です。衣装の色変更や小道具の追加、ワンピースからスーツへの着替えなど、企業ニーズに合わせた細かな調整が可能になります。

従来の属性ベースから脱却した広告効果データに基づく提案システムは、最も革新的な差別化ポイントです。「Skettt(スケット)」では、より具体的な広告効果の観点からタレント選定を支援します。

タレントの属性データに加え、広告効果の観点からも、AIが「どの業界のどのような商品に適しているか」や「どのシーズンでの活用が効果的か」といった点について、最適な提案を行います。

長尾氏

これまで「女性向けターゲットだから女性タレントを起用したが効果がなかった」という課題も、時期や商品特性、ターゲット層の詳細分析により解決できるようになります。IP活用領域でこうした広告特化データを持つ企業はまだ少なく、大きな差別化要因となっています。

この技術開発を支えるのがフィリピンの開発拠点です。現在約10名のエンジニアがAIやプラットフォーム開発に従事しています。事業拡大に伴い、同拠点の法人化と人員増強が急務となっています。
最終的には世界規模でのIP活用プラットフォームを目指しています。

5億円調達で加速する事業

2025年6月、WunderbarはシリーズAラウンドで総額約5億円の資金調達を実施し、累計調達額は7億円を突破しました。NOW、ディープコア、博報堂DYベンチャーズ、SBI新生企業投資といった著名投資家が名を連ねる今回の調達は、同社の技術力と事業ポテンシャルに対する市場の高い評価を示しています。

調達資金は、フィリピン拠点のエンジニア採用と日本国内の事業開発メンバー強化、IP保有企業との連携拡大、そして地方・中小企業向けプロモーション拡大の3つに投資されます。
長尾氏が企業の最優先課題に挙げるのは人材確保です。

事業を力強く前進させるためには、スタートアップマインドを持ったハイレイヤーの採用が重要で、そこに今一番力を入れています。これが会社としての最優先課題です。

長尾氏

営業体制についても抜本的な強化を図っており、現在約10名の営業チームを率いるトップレイヤーの採用が進行中で、組織として安定したトップライン成長を実現する体制づくりを急いでいます。
長尾氏が描く「次世代IPエコシステム」とは、これまで大企業の特権だったIP活用を民主化し、AIとデータの力で効果を最大化し、国境を越えてグローバルに展開する新たな産業インフラの創造です。

挫折から始まった物語は、今や日本のエンターテインメント業界を変革する構想へと発展しています。

めぇ〜ちゃんめぇ〜ちゃん
日本だけでなく世界中のIPが利用できる新たな産業インフラの創造に期待が高まります!
  

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